So.Qu.Di.

Please give me a few days off.


May 13




机によりて 武者小路実篤

本を読まんとすれば心乱れて、
思ひの翼は外にかける。
思はんも益なきことに。
思うて益あることは心乱れず。
思うても益なき故に心乱るゝ。
 思はざらんか、それもつらし。
 思はんか、それもつらし。

心乱るゝ、楽しくかなし。
望みあり望みなし、何れかつよき。
たゞ知る運命、冷けき神が。

すべての望を運命にまかす、
不安は我をおそうてやまず。
 益なし! 本を読まんか。
 思ひの翼は外をかける。

ゆくまゝに思ひの翼かけさせ、
つかるゝを待つより外なし。
雙の目は湿ひ来たる。

流れよ涙、雙の目より。
流れぬ涙あまりに淋し。
 凩さけぶ星月夜に、
 思ひは独り外をかける。

思ひ竪横にかけめぐる。
さへぎるものなく、休まんものなし。
涙一滴、目に浮ぶ。

涙流れぬ、涙流れぬ、
温き涙流れぬ。
 思いは翼をひそめ
 清き露は連りて頬を流れぬ。

* 二十歳の時の作品と言う。


Apr 1




唇 堀内大學

かのたわやめの唇は
蜥蜴の腹か紅茸か
(入日の園の百合の花)
毒か魔藥か知らねども
苦痛の如く忘られぬ

見よ、太陽は熱を病み
赤き苦悶にうちめぐり。
女の赤き唇は
壁に障子にとびありく
蜥蜴の腹か紅茸か

酒のしわざか發狂か
壁に懸けたるジョヨコンダの
畫像は何時か紅 (くれなゐ) の
唇となりはねまはる。
(入日の園の百合の花) ——






夜汽車 萩原朔太郎

有明のうすらあかりは
硝子戸に指のあとつめたく
ほの白みゆく山の端は
みづがねのごとくにしめやかなれども
まだ旅びとのねむりさめやらねば
つかれたる電燈のためいきばかりこちたしや。
あまたるきにすのにほひも
そこはかとなきはまきたばこの烟さへ
夜汽車にてあれたる舌には侘しきを
いかばかり人妻は身にひきつめて嘆くらむ。
まだ山科 (やましな) は過ぎずや
空氣まくらの口金 (くちがね) をゆるめて
そつと息をぬいてみる女ごころ
ふと二人かなしさに身をすりよせ
しののめちかき汽車の窓より外 (そと) をながむれば
ところもしらぬ山里に
さも白く咲きてゐたるをだまきの花。


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